はじめに
DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Network、分散型物理インフラネットワーク)は、物理的なリソースを必要とするネットワーク経済を、トークンインセンティブなどのWeb3の仕組みで構築・再編するプロジェクト群を指します。身近な例としては、車両リソースを集めるUBERや宿泊施設リソースを集めるAirbnbが挙げられますが、DePINはこれらをトークン経済で分散化・再構築する試みです。
Hivemapper、Filecoin、Heliumなどのプロジェクトが代表的で、日本でも東京電力グループによる実証実験(PicTrée)が開始されるなど、注目が高まっています。本稿では、DePINの基本的な仕組みと、日本における法的検討ポイントを整理します。
DePINの基本概念と代表的なプロジェクト
DePINとは何か
DePINは「分散型物理インフラネットワーク」の略称です。従来、単一企業によって提供されていた物理インフラサービス(マップ、ストレージ、通信など)を、不特定多数の参加者がリソースを提供し、トークン報酬を得る形で再構築するモデルを指します。
主要プロジェクト例
以下に、代表的なDePINプロジェクトをカテゴリー別に紹介します。
データ提供型
- Hivemapper:ダッシュカメラで道路情報を収集し、HONEYトークンを報酬として付与
- DIMO:車両データを収集・分析し、DIMOトークンで報酬を付与
- PicTrée:電柱やマンホールの撮影によってメンテナンスに貢献し、Amazonギフト券やDEPトークンを獲得
リソース共有型
- Filecoin:余剰ストレージ容量を提供し、FILトークンで報酬を得る分散型ストレージネットワーク
- Render Network:GPUの余剰計算能力を提供し、RENDERトークンを獲得するクラウドレンダリングプラットフォーム
専用機器設置型
- Helium Hotspot:LoRaWAN通信機を設置し、HNTトークンを報酬として得るIoTネットワーク
- Helium 5G:5G通信機を設置し、MOBILEトークンを獲得する分散型5Gネットワーク
- GEODNET:高精度GPS測位機器を設置し、GEODトークンを付与される位置情報ネットワーク
日本法における主要な検討ポイント
DePINプロジェクトを日本で展開または参加する場合、以下の法律が関連する可能性があります。
資金決済法(暗号資産規制)
トークン付与の扱い
- プロジェクトへの貢献に対するトークン付与は、暗号資産の「売買」や「交換」に該当せず、資金決済法の規制は通常適用されません
- ただし、付与されたトークンを運営側が預かる場合、「暗号資産の管理」に該当し、暗号資産交換業の登録が必要となる可能性があります
決済スキーム
- 利用料の支払いにクレジットカードを利用し、相当量のトークンをBurn&Mintする仕組みは、暗号資産の売買とは見なされない場合が一般的です
トークン上場
- 日本居住者に対して業として暗号資産を販売する場合、暗号資産交換業の登録が必要です
- 海外取引所経由での販売でも、日本居住者が対象となる場合は規制の対象となり得ます
景品表示法
トークン付与の位置づけ
- トークン付与が「貢献に対する報酬」と位置づけられる場合、景品表示法の景品規制は適用されません
- ただし、機材購入に付随する「おまけ」と見なされると、規制の対象となる可能性があります
特定商取引法
業務提供誘引販売取引
- 専用機材を販売し、「報酬が得られる」ことを誘引する場合、業務提供誘引販売取引に該当する可能性があります
- 該当する場合、書面交付義務などの規制が課されます
電波法
無線通信の利用
- 無線通信機能を持つデバイスを利用する場合、技術適合証明(技適マーク)の取得または免許が必要です
- 技適マークのないデバイスの利用は、電波法違反となる可能性があります
電気通信事業法
通信サービスの提供
- 他者に通信サービスを提供して報酬を得る場合、電気通信事業の届出または登録が必要です
- Heliumのようなホットスポット提供は、該当する可能性が高いと考えられます
その関連法規
製品安全関連法
- 専用機器の輸入・販売には、電気用品安全法、消費生活用製品安全法、製造物責任法などが適用される可能性があります
代表的なDePINプロジェクトの詳細
Hivemapper:分散型マッピングネットワーク
Hivemapperは、Google Street Viewのようなサービスを分散型で実現するプロジェクトです。
- 参加方法:専用ダッシュカメラを購入し、車に設置して走行中の映像を収集
- 報酬:収集したデータに応じてHONEYトークンを獲得
- データ利用:商業利用者はHONEYトークンでマップデータを購入可能
Filecoin:分散型ストレージネットワーク
Filecoinは、余剰ストレージ容量を活用した分散型ストレージサービスです。
- 参加方法:余剰ストレージ容量をネットワークに提供
- 報酬:提供容量と期間に応じてFILトークンを獲得
- セキュリティ:データは暗号化され分散保存されるため、高い耐障害性とプライバシー保護を実現
Helium:分散型無線ネットワーク
Heliumは、IoT向け通信網(LoRaWAN)と5G通信網を分散型で構築するプロジェクトです。
- 参加方法:専用ホットスポット機器を購入・設置
- 報酬:通信提供に応じてHNTトークン(LoRaWAN)またはMOBILEトークン(5G)を獲得
- ネットワーク構築:個人設置のホットスポットが連携して広域ネットワークを形成
PicTrée:電力インフラメンテナンス支援
PicTréeは、ゲーム要素を取り入れた電力インフラ点検支援プロジェクトです。
- 参加方法:スマホアプリで電柱やマンホールを撮影
- 報酬:Amazonギフト券やDEPトークンを獲得
- 社会貢献:撮影データは電力会社のメンテナンス判断に活用
よくある質問(FAQ)
Q1: DePINに参加するにはどんな準備が必要ですか?
A: プロジェクトによって異なります。HivemapperやHeliumでは専用機器の購入が必要ですが、Filecoinでは既存のストレージ容量を、PicTréeではスマホだけで参加できます。各プロジェクトの公式情報で確認してください。
Q2: トークン報酬には税金がかかりますか?
A: 日本では、トークン報酬は雑所得として所得税の対象となります。報酬額や売却時の利益など、詳細は税務署または税理士に相談してください。
Q3: 日本でDePINプロジェクトを立ち上げる場合、どのような法的検討が必要ですか?
A: 資金決済法、景品表示法、特定商取引法、電波法、電気通信事業法など、プロジェクトの性質に応じた法的検討が必要です。専門家の助言を得ることをお勧めします。
Q4: 海外のDePINプロジェクトに日本から参加しても大丈夫ですか?
A: 参加自体は可能ですが、利用するデバイスの電波法適合性や、トークン取得時の税務処理など、日本国内の規制を遵守する必要があります。プロジェクト毎に慎重に確認してください。
Q5: DePINのトークン価値はどう決まりますか?
A: 需要と供給で決まります。ネットワーク利用者が増えるほどトークン需要が高まり、価値上昇が期待されます。ただし、市場状況により変動するため、投資目的での参加は注意が必要です。
おわりに
DePINは、物理インフラを分散型で再構築する新しい試みです。トークンインセンティブによるネットワーク効果は、従来の集中型モデルにはない柔軟性と拡張性を可能にします。一方で、日本では様々な法規制が関連する可能性があるため、参加または構築を検討する際は、各法律の要件を慎重に検討する必要があります。
技術と法制度の両面から発展が期待されるDePIN領域は、今後も注目すべき分野と言えるでしょう。